INTERVAL
緑の平原、木々の生い茂る森、結界魔導器に守られた街の景色が輪郭をはっきりと捉えられないまま次々と後方へ流れていく。若き始祖の隷長バウルに引かれる空翔ける船に乗っているとうっかり世界の広さを忘れてしまいそうだった。
空気さえ裂いて翔けるため、甲板の端に寄らなければ内側は意外と受ける風も弱い。緩やかな風に長い黒髪を揺らしながら、ユーリは珍しく何を考えることもなくぼんやりと船よりも遥か上空にぽかりと浮かぶ雲を眺めていた。
ぼんやりとしている場合ではないことは重々承知している。けれど今自分が直面している事態の規模が余りにも大きすぎて、意識ばかりが先走って事態に追い付けない心身が悲鳴を上げ、強制的に息抜きを要求していた。
遠く見渡す海上に巨大な指輪のような建造物が見える。古代の遺跡、ザウデ不落宮。これだけ離れた場所から見てもその大きさが分かるあの建物から落ちてよく無事だったものだとユーリはまるで他人事のように思う。
あの建物の頂上で腹に短剣を突き立てられた。しかし剣を振るった者に迷いがあったからかその傷自体が致命傷にはならなかったこと、落ちた場所も岩場や遺跡の上ではなくおそらくそれなりの水深のある海だっただろうこと、そして何よりも一部始終を間近で監視し、すぐにユーリを回収できる場所にデュークがいたこと。様々な偶然と幸運が重なって自分はこうして生きている。
普通なら確実に死んでいただろう事態を偶然で切り抜けたからこそ、今その反動で抜け殻のようにぼんやりとしているのかもしれなかった。
「……ん?」
船室の外壁に寄り掛かり見るとはなく流れる景色に目を留めていたユーリはふと覚えた違和感に小さく声を落とす。俄かに強くなる風は船の速度が落ちた証だ。緑の塊にしか見えなかった森の木々も一本一本が見分けられるほどになっている。明らかに高度も落ちているようだった。
「こんな所で降りるのか?ゾフェル氷刃海はもう少し先だろ?」
船首に近い場所で声なき声でバウルと言葉を交わしていたジュディスに問いかける。エステルに施された命を削る術式をより安全で安定したものにするため、魔導士少女リタの導き出した調査結果に賭けて自分達が向かっているのはもう少し北上した先の流氷が流れ着く海岸沿いのはずだった。
「ちょっとノール港に寄り道」
「ノール港?」
ジュディスの答えにユーリは眉根を寄せる。確かにゾフェル氷刃海に向うにあたって港の街カプワ・ノールは通り道で遠回りしなければならない場所ではないが、わざわざ立ち寄らなければならない理由もない。旅の準備は仲間が揃ったダングレストの街で済ませてきたはずだ。
「きっとフレンがまだノール港にいるはずです。騎士団が自由に船を乗り入れできる港はノール港ですから」
答えた声はジュディスのものではなく、船室から出てきたエステルのものだった。振り返るとエステルに続いて他の仲間達も船室から出てくる。
「……フレンが?」
フレンの名を聞いてユーリは無意識に寄せた眉をさらに寄せていた。真っ先に浮かんだのが金色の髪に空色の瞳の穏やかな旧友の顔ではなく、フレンに会う時は大概彼の隣でキリキリと目尻を吊り上げユーリを忌々しげに見ていた副官の女の顔だったからだ。フレンに会えば彼の忠実な部下である彼女とほぼ確実に顔を合わせることになるだろう。
「ユーリの無事を早くフレンにも伝えてあげたい」
一言一言を噛み締めるように言うエステルの淡い微笑にユーリは返す言葉もなくひっそりと溜息を零した。
ザウデでユーリを刺したのは他でもないその副官の女、ソディアだ。
騒ぎ立て、彼女の罪を糾弾し、贖罪を求めるつもりは毛頭ない。彼女が自分を殺したいほどに憎む理由は痛いほど理解できるからだ。だが、だからと言ってさすがのユーリもこのタイミングで何食わぬ顔で会えるほどの度量を持ち合わせてはいなかった。
「……とりあえず同じモン相手にしてんだから今わざわざ会いに行かなくてもフレンにはそのうちどっかで会えるだろ」
今フレンがどんな気持ちでいるのか、もしユーリとフレンの立場が逆だったらと思えばそれは想像に難くないがやはり気は乗らない。だがユーリが何を言ったところで仲間の決定が覆ることがないのは船の底が地面に付きそうな所まで降りているのを見れば間違いはなかった。そもそも出発しろと言ったところでバウルがユーリの言うことを聞くとは思えない。
「一刻も早い方がいいです。フレン、本当に本当に心配してたんですよ?」
エステルが祈るように握り合わせた手を胸元に押し当て、渋るユーリを前屈みになるほどに強く諭す。心配しているのは分かっていた。何度も何度も船を出しているのだとザーフィアスでエステルの口から聞いている。
「人伝に聞くよりも直接元気な姿を見せてあげる方がいいと思うけれど」
「そうね、あんただけが帰らないって知った時のいつも涼しいあいつの顔の変わり様ったらなかったわよ」
いつも女性陣の勢いは容赦がないが、今回は特にユーリ一人で太刀打ちできるものではなさそうだった。せめてどちらかは味方に付いてくれないかと伺った男性陣も当てにできそうな様子ではない。
「騎士団も今はてんてこ舞いだ。代行とは言っても実質団長に任命されたも同然のあのあんちゃんに回される仕事の量は半端なモンじゃない。それを放ったらかしにして自分の我侭で動くような御仁じゃないでしょ、あの堅物は」
何か事が起こっても静観していることの方が多いレイヴンも今回ばかりは積極的に口を挟んでくるつもりらしい。
「そんなあんちゃんが自分の勝手にできる時間っつったら寝る時間だ。やっこさん、休息時間削ってろくに共も連れずに船出してお前さんをずっと探してんのよ。そろそろゆっくり休ませてやんな」
これも年の功と言うべきなのか、飄々とした風情を装っていてもレイヴンの言葉は折に触れて若造の胸に重く響く。口調の軽さとは裏腹に真摯な表情が更に言葉を重くしていた。
端からあまり頼りにできないとは思っていたが、残るカロルとラピードはすでに船から降りていて、今にも街に向かって駆け出しそうな勢いだ。
「……分かったよ。ただしここにいなかったら回り道せずに目的地に直行するからな」
渋々頷くユーリに、全員が全員いないわけがないとでも言いたげな余裕綽々の顔で次々と船を降りていく。
ユーリとて会いに行きたくないわけではないのだ。目立った怪我もなく無事な姿を見せて安心させてやりたいと思う。だがやはり一歩進むごとに腹の底に何かが溜まっていく感覚は拭えなかった。
新たな執政官を迎えたカプワ・ノールの街は透き通るような青い空の下、港街らしい潮の香を含んだ風の中で様々な出で立ちの人々が行き交っている。帝国直轄の港町であるためかやはり騎士の姿が多い。
「あ、あそこ、フレンだよ」
真っ先に街に駆け込んだカロルが通りの先を指差す。騎士団の船が停泊する港は街の奥だが、これから街を離れてどこかへ行くのか、あるいは街に戻ったところなのか、街の出入り口に近い広場に騎士の集団が見え、その中に金の髪が一際目を引く背の高い後ろ姿があった。待つほどもなくフレンから何事かの指示を受け、集団の大半が港へと向かう。離れていくその集団の先頭に立っているのは副官のソディアだ。
ゆっくりと移動し、残った数名の騎士と話すフレンの横顔が見える場所まで来たユーリは思わず眉を顰めた。
まさかとは思っていたが、本当に酷い顔だった。決して優しいだけが取り柄の面差しではなく、敵を見据える眼差しは背筋が凍るほどに鋭いフレンだが、それとはまったく種類の違う鋭さはまさに形相だ。対する騎士もどこか及び腰でまともに目を合わせることすらできずにいる。柔らかな微笑の似合う頬は痩け、白を通り越して青白い。もはや気力だけで立っているように見えた。
やがて視界の端にユーリ達の集団を捉えたフレンがゆっくりと首を巡らせる。
視線が交わる。どんな顔をして、何を言おうかとユーリが迷いかけた瞬間だった。
「……っ」
ユーリの後ろに立つエステルが息を呑む。こんな時には真っ先に頓狂な声を上げるはずのカロルですら言葉を失う、それほど唐突なフレンの表情の変化だった。
まるで面が剥がれ落ちるようにあらゆる表情が消え、喜怒哀楽を一切含まないまったくの無になる。次の瞬間には一度の瞬きさえすることもなく、青い瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「フレ……っ、お前……!」
何を考える間もない。これでは悪目立ちの上乗せだと後悔した時には既に手遅れで、ユーリは咄嗟に棒のように突っ立っているフレンの手を掴んで駆け出していた。
黒尽くめのいかにも風来坊然とした男に手を引かれる輝かんばかりの金髪と高い位を示す騎士団の装束に身を包んだ男。そんな二人が街中を駆けて目立たないはずがない。初めてこの街に訪れた時のように空が暗く曇っていればまだしも、こんな時に限って空は眩しく晴れ渡っている。
どこか人の少ない場所と思っても人目のない場所などなく、闇雲に駆けた結果ユーリが咄嗟に飛び込んだのは貨物船に積み込む大きな木箱の積まれた路地の奥だった。
大きいが中に何も入っていな木箱は少し強く押せば容易く動く。いくつか押し退け、とりあえず姿を隠せそうな場所を確保したところで気が緩み、ユーリはフレンを抱え込んだままずるずるとその場に座り込んだ。
「……ったく、いきなりそれはないだろ、フレン……」
意識はあるようだが自身の身体を支える力はないらしく、遠慮のない重みを預けてくるフレンの甲冑が強く肌に押し当てられて少し痛い。だがそれを押し退けようとは思わなかった。
「……ユー……リ……僕は……っ」
「あー無理して喋んなくていいぜ、何言ってんのか全然分かんねぇ」
頬に触れる金色の髪が風のせいではなく揺れている。ユーリなどでは到底入手できそうもない高価で貴重な素材で作られた白銀の甲冑に覆われた肩が子供のように小刻みに震え、顔を埋められた胸元の服の布地が温かな雫と吐息で次第に湿り気を帯びていった。
少し奥に入っただけなのに街の喧騒が遠い。目撃者多数なのはもう仕方のないことだと諦めるとして、ようやく少し落ち着いて辺りを見渡したユーリは、ここが初めてこの港街を訪れた時にフレンと再開した場所であることに気付く。もしかしたらと首を伸ばして見遣った先の壁には、あまり人の入り込まない路地ゆえか、回収し忘れられたあの芸術的な似顔絵の手配書が賞金額の末尾だけを残して風雨に溶け崩れていた。
無意識にフレンの背を子供をあやすようにぽんぽんと一定のリズムで軽く叩きながらユーリは空を見上げる。建物の壁に区切られた狭い空を海鳥がすいと過ぎり、遠く船の汽笛が聞こえた。
「……ユーリ……」
「んー?」
遠い潮騒に紛れてうっかりすると聞き逃してしまいそうな弱い声がユーリを呼ぶ。木箱に背を預け、空を見上げていた顔を下ろすと、胸元から青い瞳がユーリを見上げていた。泣いて頭に血が上ったのか、青白かった頬にはうっすらと赤味が差している。腫れぼったい目元は少々フレンらしくないけれど、病的に青白いくらいならこの方がずっといい。
「……僕はずっと……もしユーリがいなくなるようなことがあっても……僕は僕の決めた道を進んでいけると思っていた……」
ぽつりぽつりと鼻に掛かった弱い声が落ちる。青い瞳は落ちた瞼の奥に隠され、目の縁に溜まった涙が瞼に押されて溢れ出し頬を転がった。
「でも……駄目だった……ユーリが戻らないと聞いてからの僕はユーリのことしか考えてなくて……帝国のことも騎士団のことも下町のことも……世界の命運のことさえどうでもよくなっていた……」
再び肩が震え始める。胸元に預けられた頬を次々と涙が転がり落ちた。
「……ユーリがいなくなっただけで……僕は……」
陽を受けて光る雫を見ながら、フレンの涙を見るのはいつぶりだろうかとユーリは考える。
下町で暮らしていた幼い頃、何でもそつなく器用にこなすのはフレンの方で、上手くできない自分が悔しくて、不甲斐なくて涙を滲ませるのはどちらかといえばユーリの方だった。それでもフレンの前では絶対に泣きたくなくて、痛むほどに眉間に力をこめ、口の中に血の味が広がるほどに唇を噛み締めていたのを覚えている。
それなのに今はフレンがユーリの前で臆面もなく涙を流していた。目と鼻の頭を真っ赤にした、子供の頃にもほとんど見たことのない顔で。
「そんなの、オレだって同じだ」
緩い潮風を受けて揺れる金色の髪をくしゃくしゃと手の中で掻き混ぜる。
「もし立場が逆だったらオレだって何もかもを後回しにしてお前を探すよ。たとえオレ以外の全員が諦めても、1%に満たない確率でも可能性が残されているならオレはそれに賭ける。ただオレの場合はお前ほど色んなモンに縛られてないから動ける自由も周りへの影響も桁が違うけどな」
乱れた髪の間から空色の瞳がじっとユーリを見上げていた。眠そうにも見える腫れぼったい目はまさに泣き疲れた子供のそれで、思わず乱した髪をゆっくりと撫でて整える自分の手にユーリは驚く。父性など持ち合わせているつもりはなかったはずなのに、思いもかけない自分の慈しみに溢れた行動にユーリは小さく苦笑を零した。
「お前がそこまで平常心を保てなかったのはオレが生きてるのか死んでるのかも分からなかったからだろ?生きてるって分かってりゃ少しくらい戻りが遅くても任務に専念できただろうし、死体でも上がってりゃそれはそれで頭ん中すっぱり切り替えられたはずだ」
艶やかな髪を指先で遊ばせながらまるで本でも読み聞かせるような気分でユーリは言葉を繋ぐ。
「オレ一人が生きてるか死んでるかくらいでどうにかなるほどお前は弱くないよ。実際、オレの生死が分からなくても騎士団はお前の指揮でちゃんと機能してただろ?」
フレンなら帝国騎士団にその人ありと謳われる騎士になれるだろう。それも、それほど遠くはない未来に。その名声を聞くまで、フレンが高みへと上り詰めるまで、高みへと上り詰めても、ユーリはユーリの進むべき道を走り続ける。諦めたり立ち止まったりはしたくない。
「でもまぁ何が起こるか分からん世の中だからなぁ……」
青く晴れ渡る空を不気味に覆う異形の影を見上げ、ユーリは独り言のように呟く。
下町の水道魔導器を取り戻せば終わるはずだった旅は、ユーリの思いを遥かに超えて世界の行く末を左右する旅へと変わっていた。下町で燻っていた頃とは比較の対象にならないほどに生きている実感はあったけれど、その分以前は遠かった「死」というものを身近に感じるようにもなっていた。
「何が起こるか分からんが、絶対にお前の知らない所で一人では死なないって約束するよ。たとえ一人で死んだって化けて出てでももう探さなくていいって伝えに来る」
ユーリの言葉にそれまで黙っていたフレンが溜息にも似た吐息を零す。
「……死なないとは約束してくれないのか」
「そりゃ無理だろ。これからあんな気味の悪いモンとやり合おうってんだぞ。つーか、どっちかってーとお前の方がよっぽど危ないだろ」
フレンは常々ユーリに「無理をするな」と繰り返すけれど、ユーリに言わせればいざとなったら周囲がぎょっとするほどの大胆な行動に出るのはフレンの方だ。追い込まれると何をしでかすかと気が気ではない。
「それをユーリには言われたくない。君こそいつもいつも無茶ばかり……」
「よく言うぜ、お前こそ……って言い始めるとキリがないからな。お互い様だ、お互い様」
どうでもいいところまで妙に頑固なフレンはおそらく内心では「ユーリの方が無鉄砲」という意見を譲ってはいないのだろうけれど、多少の自覚はあるのかユーリの胸元に寄りかかったまま肩を揺らして小さく笑った。
何をきっかけに均衡が崩れるか分からない危うさを孕んだ空を一羽の海鳥が気の抜ける声で啼きながらすいと過ぎっていく。空の脅威さえ見えなければ平和そのものの風景を、ユーリはフレンを胸に抱いたまましばらく無言でぼんやりと見上げた。
腕の中でより居心地の良い場所を探してフレンがもぞもぞと身体を動かす。
「たまには格好悪い姿も見せてみるものだね。ユーリが優しい」
ちょうど具合の良い姿勢が見つかったのか動きを止めたフレンは猫のように鼻先をユーリの肌に擦り寄せて笑う。
「そんなつまんねぇ冗談言えるくらいならもう大丈夫だな。でもまぁせっかくだし、特別に無料で胸貸してやるからもうちょっと休んどけ。あっちは副官の姉ちゃんが上手くやるだろ」
この程度の事態、あの副官には上手く立ち回ってもらわなければ困る。これくらいで右往左往するような肝の据わっていない者をフレンの隣に立たせるわけにはいかない。
「ある程度時間が経ったら起こしてやるよ」
「……ん……」
答えたフレンの声は既に半ば眠りの中に引き込まれているようだった。張り詰めていたものがすぅと抜けていくようにフレンの身体が弛緩し、それに合わせてユーリの胸元に掛かるフレンの重みが増していく。すぐに深い寝息がユーリの耳に届いた。
規則正しい寝息に耳を傾け自らもうっすらと眠気を感じつつ、ユーリは再び空を見上げる。空に開いた穴をどうやって塞ぐのかと下町の昔馴染みには言われたけれど、方法があろうとなかろうとユーリは足掻くしかない。あれをあのまま放っておくことはできないのだから。
だが、あれを首尾よく始末できたとして、自分がこの世からいなくなってしまっては元も子もない。
誰かを泣かせてしまう結末なら意味がない。
「こりゃいよいよどうにかしなきゃなんないよなぁ……あれ……」
誰も悲しませたくない。もう二度とフレンのあんな姿は見たくない。
だから勝つ。そして誰一人欠けることなく戻ってくる。そして皆で笑うのだ。
「……でもまぁ……あんなデカブツどうすりゃいいのか分かんねぇし……とりあえずオレもちょっと寝るかな……」
フレンの深い寝息がユーリを包む。内側から身体がほこほこと温かくなる感覚にユーリは堪らず欠伸を零した。
「……たまには任務サボってみやがれ……」
寝息に合わせてふわふわと揺れる金色の髪を指先で引っ張ってユーリは笑う。後で起こしてくれると言ったじゃないかとフレンには怒られるかもしれないけれど、そんなことを気にする間もなくユーリは落ちるに任せて瞼を閉じた。
不気味な異形が覆う青い空を白い海鳥が長く尾を引く声で啼きながら緩やかに旋回する。
海を見ながらのんびりと寛ぐ凛々の明星の面々も目に入らない様子で通りを右往左往し、遠慮がちに指揮官を呼ぶ騎士の弱々しい声が潮風が心地良く吹き抜ける港の街に響いていた。
END
|